行動に影響を与える価値の6段階

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やる研レポート

行動に影響を与える価値の6段階

岩元 貴久

前回のレポート「やる気の科学(2/2)」で、「私たちの行動は、その行動することによる効果(メリット/デメリット)に影響を受ける」ことを紹介した。

 

つまり私たちは、特定の行動をすることが、自分にメリットとなるならその行動をし、デメリットを被るならその行動を避ける。

 

このことを理解すれば、仕事の取りかかりが遅い社員に素早く仕事に取りかかって欲しいのなら、①そうすることが社員にとってメリットがある ②そうしないと社員がデメリットを被る ということを社員が認識するように導いてあげればよいということになる。

 

そこで、その社員にとってのメリット/デメリットとは、何に対してのメリットでありデメリットなのか、その基準となる対象は何か?という問いで前回のレポートを結んだわけだが、さて、その回答について考えていただけただろうか?

 

この答えこそが、私たちの行動を決め、それが私たちの生き方であり人生そのものとなる。さらにいえば、私たちのアイデンティティ=存在価値を決めるといっても過言ではない。このことを前提に、これから述べることは読者の生き方に大きく関わる非常に重要なことなので、ぜひ心して聞いて欲しい。

 

まず、私たちの行動がもたらすメリット/デメリットの判断を下す基準となる対象は、一言でいえば私たちが関心を持つ「価値」である。

 

そして、その価値は以下の6つの段階にわけられる。

 

<行動に影響を与える価値の6段階>

価値1.生命の維持(睡眠、食欲、性欲といった生理的欲求)

価値2.身体が快適であること(苦痛や疲れのない楽な状態)

価値3.情緒的安心(組織・家族への帰属)/財産欲(持ち物、お金)

価値4.名誉/承認(社会的相対価値:褒められ、感謝される)

価値5.使命の実現(自己実現の手段)

価値6.信念(人間愛)

 

これを見て、米国の心理学者マズローが提唱した「欲求5段階説」を思い出す読者もいるだろう。

 

欲求5段階説との違いは、マズローによると人間の欲求は下から順に1つの段階が満たされたら次の段階へと段階的に生理的欲求から安全の欲求、社会的帰属の欲求、尊厳の欲求を経て最高位となる自己実現へと上昇していくといった欲求の進行(順番)を示したものだ。

 

これに対して価値の6段階は、上位の価値を満たすためには、当該の価値を損ねることを受け入れる。つまり、価値の上位の価値の前では、その下の価値は満たされなくてよいというように、価値の優劣があるとする考え方だ。

 

価値の優先順位として価値1.生命の維持がもっとも低く、価値6.信念が最上位となる。ただし、前提として、これは平時(日常)の行動に影響する価値であることを予め断っておく。

 

一見すれば、価値1の生命維持こそがもっとも最高位にある価値であると言えなくもないが、私たちが行動するという意味において、生きていることが前提であるため、ここで述べる価値1の生命維持とは生理的欲求として捉えていただきたい。

 

例えば、食事をとることは生きるために必要なことだが、身体が疲れていて料理をするのが面倒であれば、食事をとるのをスキップしたり、または食事の時間を遅らせることを厭わないといったことだ。つまり、私たちの行動は、価値1の生命維持よりも価値2の身体的快適を優先するのだ。

 

価値3の情緒的安心とは、家族への愛着であり、友人グループや会社組織に所属していることへの安心のこと。そして財産欲は、物質欲や金銭欲のこと。情緒的安心と財産欲は、人によってその価値の優劣が異なったり、状況に応じても優劣が変わるため、同列とした。

 

家族のためなら、身体が多少きつくても会社に行って仕事をする。お金のために肉体労働をすることを厭わないと私たちは判断するが、それは、価値3の情緒的安心/財産欲は、価値2の身体的快楽に優先する価値であることを意味する。

 

つぎに、価値4の名誉/承認については、仮にうまくごまかすことで容易にお金を手に入れることができる状況があったとする。しかし、騙すという行為は社会から認められるものではないため、多くの人はお金を得ることよりも、騙すことを善しとしない=社会から認められる行為を選ぶのだ(むろん例外は存在しうる)。むしろ、中には汗水たらして稼いだお金を寄付して感謝されることに喜びを感じる人も多数いるのだ現実だ。これは、価値4の名誉/承認が価値3の財産欲より上位となる価値であることを示すものである。

 

価値5にある使命とは、自分が生まれてきた目的であり、生きる意義と言ってもよい。その目的は、どういう手段で何を実現するか、という具体的な実現手段で表される。

 

価値4の名誉/承認が、他人や社会から受ける評価であるのに対し、価値5の使命は、自己認識による存在価値となる。自分の使命に気づき、その使命を全うすることを決意したものは、他人の評価に左右されることなく、ひたすら使命の遂行に邁進する生き方をする。

 

そして、人間はときとして、使命を遂行するために自らの命をかけることすら厭わない。つまり、価値5は価値4に優先するのだ。

 

これまで述べた1〜5の価値のすべてに優先する価値が、信念である。これは人間愛と言い換えることができる。実はこの価値6の信念は、価値1〜5までとは異なる。

 

価値1~5は、私たちの平常時の行動の基準となる価値である。それからこの段階の価値は、時間の経過、状況に応じて1から順に変化しやすいものでもある。

 

ただし、価値5については、平常時の行動に影響するものだとはいえ、この価値を認識している人は少ないのが実情だ。なので、実際の行動が価値5の影響を受けているかという点では、当人の認識とは大きくズレが生じているものである。

 

これに対し、価値6の信念は、非常時に私たちの行動に影響する価値である。そして、これを意識することは稀であるが故に、生涯を通じてその価値が変わることは少なく一定である。ただし、絶対不変というものではなく、稀ではあるが変わる可能性があると言っておこう。

 

こうした6段階の価値に対してメリット/デメリットを判断しながら、私たちのとる行動が決まるというのが、私たちの行動のメカニズムというわけだ。

 

このことを踏まえれば、課題である部下の行動「仕事の取りかかりが遅い」を「素早く仕事に取りかかる」に変えるために何をすればよいか賢明な読者諸氏であれば、察しがついたことだろう。

 

岩元貴久

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