やる気の科学(2)

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やる研レポート

やる気の科学(2/2)

岩元 貴久

前回のレポート「やる気の科学(1/2)」で、「やる気がある/ないの状態を具体的な行動で示すと、何をどうすればよいか解決案の目処が見えてくるものだ」と述べた。今回は、その解決案の導き方を具体的に述べることにする。

 

「やる気」を科学する上でのポイントは、「やる気」という概念を具体的な行動で示すことにある。行動を分析の対象とすることで、ことは論理的にアプローチできるようになるわけだ。私たちの行動には、その行動をする動機(原因)がある。そして、ここがとても重要なのだが、行動の原因となる動機は、時系列で言うならば、行動の前にあるのではなく、行動した後にあることを知って欲しい。

 

私たちは、原因と結果を考える時、原因が時系列の先(前)にあって、その後に結果が起ると想像してしまう。そのため、行動の動機は、行動する(時系列的に)前にあるものだと考える傾向にある。しかし真実は、行動の後に、その行動の動機があるのだ。これを理解するために、ご自身の持つ行動パターン(習慣)を考えてみるといいだろう。

 

あなたは、朝起きてから、ある特定の行動パターンで行動するはずだ。特に習慣については、幼少の時からずっと続けているものも少なくない。こうした行動パターンは、生まれた時から備わっていたわけではなく、成長する過程で身につけてきたものだ。つまり、行動パターンは、自然に起ったものではなく、学んだものなのだ。

 

どのように学んだかと言えば、幼少時には親から「こうしなさい、これはしてはいけません」と指示を受ける。そして、その指示通りにすれば親が褒めてくれる。幼少時、一番嬉しいことは親が自分がしたことで喜んでくれたり、自分の行いを褒めてくれることである。だから、親に喜んでもらおうとして、親が指示することや親がしていることを真似ようとするのだ。その行動を繰り返しとっていると、いつしかそれは無意識で行うようになる。つまり、それが自分の行動パターンとなり、習慣となるというわけだ。

 

こうして、自分が何か行動する→それで自分が望んでいることを手に入れる(例:親から褒められる)という基準に則る行動を、私たちは繰り返しながら成長していく。それはつまり、行動することによって自分が望むものを手に入れるという基準で、何を行動するかを決めていることに他ならない。これを『行動パターン化の法則』と呼ぶ。

 

行動パターン化の法則は、私たちは、その行動によってもたらされるメリットを認識すると、その行動をとり続ける。もし、メリットを認識できないようだと、その行動をとらない可能性が高いし。最初はメリットを認識できていたので行動していたが、それを認識できなくなると次第に行動しなくなる。それから、その行動がデメリットを及ぼすと認識すれば、その行動を避ける。もし、その行動のデメリットを認識しない場合は、その行動を意識して避けることはない。

 

要するに、私たちは自分に利になることを行い、不利になることはしない。逆に、利にならないことは、積極的にすることはない。また、不利と思わなければ、それをあえて避けることもない。このことは、人間を利に生きる動物とは違う霊性の高い存在と考える人にとっては、心情的には認めたくないし、反論したくなるだろう。しかし、冷静になって客観的にご自身の行動を振り返れば、納得いただけるはずだ。損をすることがわかっていて、投資をしたり、モノを購入したりしない。辛いことより楽なことを選ぶし、傷つくことはできるだけ避けるはずだ。仮に厳しい道、困難な道を選ぶとしたら、それは目先のものではなく、その後に得られるメリットを望んでの行動となる。このように、私たちの行動は、その行動することによる効果(メリット/デメリット)に影響を受けるのである。

 

このことを踏まえて、前回のレポートで例にあげた部下の行動を分析してみよう。
「仕事の取りかかりが遅い」「仕事を完了するスピードが遅い」「遅刻や早退、欠勤が多い」「会議で発言しない」「チームに協力しない」といった部下の行動が問題となっていた。

 

これに対し、上司が部下に望むのは「素早く仕事に取りかかる」「仕事の能率をと生産性が高い」「仕事に熱心」「会議に積極的に発言し、チームに貢献する」ことであった。

 

そこで問題解決の目的は、部下の行動を「仕事の取りかかりが遅い」→「素早く仕事に取りかかる」に変えることになる。

 

この場合の解決法の手順は以下のとおりだ。

 

まず「仕事の取りかかりが遅い」のは、それによって部下は何らかのメリットを得ている可能性がある。早く仕事に取りかからないことのデメリットを認識していないとも考えられる。または、それによって得られるメリットの方がデメリットよりも大きいと認識している。

 

そこでやるべきは、

 

① 仕事の取りかかりが遅いことのよるメリットを部下と話し合って、部下に挙げてもらう。

 

② 次に、仕事の取りかかりが遅いことのデメリットを部下に考えてもらい、メリットよりもデメリットの方が大きいと部下が認識するまであげてもらう。

 

それから今度は「素早く仕事に取りかかる」ことについてだ。部下は「素早く仕事に取りかかる」ことのメリットを認識していないか、またはそのデメリットを認識、またはデメリットの方がメリットよりも大きいと認識している。そこで、次の手順をとる。

 

③ 素早く仕事に取りかかることでどんなデメリットがあるか、部下に挙げてもらう。

 

④ 次に、メリットについて、部下が思いつく限りすべて挙げてもらう。デメリットよりもメリットの方が大きいと認識してもらうまで挙げることがポイントだ。

 

このワークを終えると、部下の認識は以下のように変わっているはずだ。

 

仕事の取りかかりが遅い:自分にとって都合が悪い(デメリット>メリット)

 

素早く仕事に取りかかる:自分にとって都合が良い(デメリット<メリット)

 

一般の質問として、部下に仕事に素早く取り組むのと、取りかかりが遅いのとどちらか望ましいかと尋ねれば、前者であると答えるだろう。しかし、部下の心の底(潜在意識)まで、この考えが浸透しているとは限らない。特に仕事の取りかかりが遅い社員の認識は、逆の状態なのだ。だからこそ、上述したワークは、言葉遊びで終わらせるのではなく、部下にしっかりと認識し、紙に書き出してもらうことが重要だ。それも、メリット/デメリットの内容を詳細に明確に書いてもらう。そうすることではじめてメリット/デメリットがはっきりと認識され、潜在意識まで浸透するのだ。

 

こうすることで、部下の行動は「仕事の取りかかりが遅い」→「素早く仕事に取りかかる」へと変わる。

 

実際に試してみるといい。きっとあまりにも簡単に、そしてその即効性に驚くことになるだろう。

 

さて、「実際に試してみるといい」とは言ったものの、読者がそれを実行しようとすると、きっと1つの疑問が浮かびあがることだろう。それは、メリット/デメリットを洗い出すときの基準である。誰に対して、そして何に対してのメリット/デメリットなのか?と。。。

 

実は、それこそが「行動の科学のキモ」なのだ。この答えについては、次回のレポートで明らかにし、かつ具体的な手法をお伝えするので楽しみにしていて欲しい。それまでは、読者のみなさんで、行動の科学のキモであるメリット/デメリットの基準が何なのかを考えてみて欲しい。

 

岩元貴久

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