リーダーシップを発揮する社員(1/2):個の力

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2013-06-13

日本人は個人ではパッとしないが、集団になると非常に優秀であると言われる。

ステレオタイプな意見と言えばそれまでだが、あながち的外れでないことは読者もお感じのことだろう。

これは、日本では学校教育や家庭で「協調性」を重視した教育がなされているのと、もともとの日本の風土、氣質に起因しているものと思われる。

アメリカと日本で会社経営をしている筆者からみて、日本人は総じて個人の利益よりも集団の利益により意識を向ける傾向が強いと感じる。

このことは企業のシステムを見てもわかる。未だに多くの企業で実質的に行われている年功序列型の昇進、給与体系は、組織の秩序、すなわち調和を保つための施策の1つであると言ってよい。

3.11の後、日本では「絆」という言葉が頻繁に使われるようになったが、これも協調性に価値をおく日本人の特性に叶ったものであろう。

実際に日本企業が1980年代に世界で注目されていたのは、その日本人の和に基づいた企業活動が業績を上げる原動力になった。

当時は、日本の製造業はまさに世界を席巻するほどの勢いがあった。日本製品の代名詞とも言える「安くて高品質」は、製品とはかくあるべきだという理想を世界に示したともいえる。

そして、それを可能にしたのは、ウィリアム・エドワーズ・デミング博士による「品質管理」の概念であった。とりわけ日本では現場作業員と管理者が共同で行うQCサークル(品質改善活動)が盛んに行われ、日本の製造技術を一挙に世界トップレベルに押し上げた。

このQCサークルの特徴は、現場で働くブルーカラーの作業員と管理する側であるホワイトカラーの監督や設計者が一緒にチームを組んで品質の改善活動に取り組むことであった。

つまり、管理する側と管理される側が、その垣根を越えて同じ目的に向かって共に働くわけだ。

これはホワイトカラーとブルーカラーの業務が縦割りで明確に区別され、決して交流することのない当時の欧米企業にとっては驚きであった。

このように日本人の和の精神が、品質改善活動に大きく貢献し、日本企業は世界トップレベルの力をつけたのである。

さて、では現代の日本企業はどうだろうか?

企業環境は、1980年代とは大きく様変わりしている。人の価値観はさらに多様化し、インターネットの発達によりビジネスモデルの変革とともにビジネスの展開スピードが加速、またグローバル化の伸展により競争が激化している。

そうした状況の中、日本企業かかつての勢いを失い、世界の市場では、韓国を始めとする台頭するアジア企業と肩を並べられ、サービスや小売り、コミュニティービジネスでは、アメリカに水をあけられている状態だ。

日本企業得意のチームの和では、突破できない壁を感じている経営者が多いのではないだろうか。

個人的に「和の精神に基づくチーム力」は日本の特徴といえるもので、失ってはならないと思う。

ただし、物事には必ず二面性があるように、チームの和を尊重する姿勢には、プラス面もあればマイナス面もあることを認識することだ。

和を尊重すると、次第に同調圧力が強まる。

チーム内の協調性が重視され、それが行き過ぎて、皆と同じことをすることをもとめられるようになる。

それに反することは、悪なのだ。

反したものは「村八分」的に疎まれ、評価されない。そして、それを避けるために、いつしか社員には

― 言いたいことがあっても発言しない。

― よりよいアイデアを持っていても、チームの方針に反するようなことは言わない。

― 上長の意見に反対を表明しない。

といった意識が芽生えるようになる。

チーム会議は、一部の上長(リーダー)の方針を確認し、その意見に賛同する場と化してしまうのだ。

また、突出した存在を認めない。いわゆる「出る杭は打たれる」的な扱いをされるのだ。

「他人と違うことをしてはならない。」

「場の雰囲氣を乱してはならない。」

といった暗黙の了解が組織風土に根づいてしまう。

これは次第に組織の中に個の力の伸展を妨げる弊害となってしまう。

しかし、和の精神に基づくチーム力の本来の目的は、個の力を合わせてシナジーを生み出すことにある。

それを前提にすれば、本来は組織は、個がその潜在力をいかんなく伸ばし、発揮することを歓迎し、サポートするべきである。

組織がその目的を実現するためには、チームの協調性のために個が妥協するようなことがあってはならないのだ。

サッカー日本代表チームを見ると、世界のトップレベルで活動し、世界トップレベルの選手になることを目指している選手は、共通して「個の力」を伸ばすことを強調している。

チームが世界のトップレベルに立つには、強い個の力が結集させることがチーム力の向上になるというのである。

2013年6月4日のワールドカップ(W杯)予選突破を決めたオーストラリア戦の翌日に行われた記者会見でMF香川真司選手が次のように答えている。

代表チームが抱えている課題は?の問いに対して

「もっと強い意志や信念を選手一人ひとりが持たないと。代表としてまだまだ個性が足りない。

日本代表の良さとして、チームワークというのは大事なものだけど、それだけでは勝てない。

個性がもっともっと表れてこないといけない」

そして、香川選手の考える個性とは

「日本代表はチームワークを大事にして、チームのためにやっているという考えを持った選手が多い。

それが日本の特徴ではあるけど、その中でももっと、自分がやるという強い気持ちを持つ選手が必要。

個性、強さをもっとみんな持たないといけない。」

香川選手が所属する世界トップのクラブチーム(マンチェスター・ユナイテッド)との違いについて

「チーム(マンチェスター・ユナイテッド)には強力な個性を持った選手がいて、彼らと同等、彼ら以上の意識を持っていないといけない。2年目はチームの中でいかに自分を表現できて、主力としてやれるかというのが必ず代表にもつながる。今年は周りがすごいから、その中でやっていただけだった。」

注)出典:2013/06/05付けのGoal.comの記事から抜粋。

つまり、香川選手は、世界で戦うには自身も含めた一人ひとりが個人の力をレベルアップさせていくことが日本代表全体としての成長につながると訴えているのだ。

もう一度言うが、日本人が大切にしている「和の精神」「協調性」といった価値観はすばらしい特性であり、失ってはならないと思う。

これからはその和を構成している個の力をさらに磨くことで、強力なシナジーが働き組織力をさらに増大させる時代になったのだ。

個の力を発揮する。つまりそれは、社員一人ひとりが自分の特性である才能、知識、スキルを大いに磨いてそれを仕事を通して表現することである。

ここで重要なのは、社員の才能、知識、スキルは、それぞれの社員の価値観の表れであることを知っておくことだ。

そして、この世にまったく同じ価値観を持つもの等一人もいない。似た人はいるだろうが、まったく同じ価値観を持つ人等いないことを認識することが重要だ。

特に21世紀に入ってからは、個人の価値観はその違いがはっきりとわかるようになっている。

それだからこそ、この価値観を認識することなく組織の和を押し進めようとすると、協調性の名の下に、社員が自分の価値観をねじ曲げたり、時には押し殺して、他者(組織)の価値観を受け入れる形をとることになるのだ。

これでは組織の力など発揮するべくもないことがおわかりだろう。

社員一人ひとりが自分の価値観に基づき自己主張することになると、協調性が崩れるように危惧する読者がいるかもしれない。

しかし、自然界を見ればそんな心配などいらないことがわかるはずだ。

自然界の生物の種類は、500万種以上あると言われているが、それぞれが特徴を持って生きている。誰かに遠慮したり妥協することなく、自らの特徴(個性)を発揮して(言い換えれば、自己主張)生きているが、全体として見事に完璧なハーモニーを奏でているではないか。

企業が組織力を最大限に引き上げるには、社員が個の力を発揮することであり、それは社員が自身の価値観に基づいて働くことである。

それができている組織は、そこで働く社員はハツラツとして幸せであろう。

この続きは『リーダーシップを発揮する社員(2):リーダーとやる気』をご覧下さい。





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