前回の記事で奇跡の経営とは、セムコが採用している制度でもなければ、セムコが出している経営的な成果でもないとお伝えした。
なぜなら、それらはセムコの企業環境や企業文化に合致した形で現れた表面的な特徴に過ぎないからだ。
だから奇跡の経営を、セムコの形に真似てみても、本来の社員が生き生きとして働く奇跡の経営の本質は実現することはできない。
重要なのは、社員にとって会社で働く毎日が休暇のように待ち遠しく楽しいことになるようにする「一週間毎日が週末」であり、社員がリーダーシップをとり自己管理できる「社員は大人」であるため、社員をコントロールすることなど必要ないという2つの価値観である。
この2つの価値観は、どの企業であろうと本来的に共通して持っておいてよい。なぜなら、それは人類の誰もが望むことであるからだ。
さて、この奇跡の経営だが、バリュー・ファクターの基になる「価値観経営」で実現できると、前回の記事で申し上げた。
その根拠を説明しよう。
まずは「一週間毎日が週末」についてだ。
週末とは、休暇のことだ。休暇では、私たちは誰からの束縛も命令も監視も受けない。そして、何をしなければならないといっった義務や責務もない。
だから、基本自分で何をするか決める。そして、何をするかは、その時自分がもっと好きなこと、やりたいことをするのだ。
休日は、私たちはもっともリラックスできる。リラックスするから、エネルギーが充電され元氣になる。リラックスしている自分は、もっとも自分らしい状態である。心にゆとりが生まれ、充実した時間を過ごす。
この休暇での状態だが、これはまさに私たちが自分の最高価値に生きているときの状態そのままである。
最高価値とは、自分がもっとも望むことであり、重要なことであり、大切なことであり、やりたいこと、大好きなことである。
好きなことをしている時の私たちは、時間を忘れて長時間に渡って疲れることなく、それをやり続けることができる。
最高価値こそが、私たちにとってのやりがいであり生きがいだ。そして、それが本来の私たちであり、生まれてきた目的であるといってよい。
つまり、最高価値に生きることは、もっとも自分らしい生き方であり、それがゆえにリラックスすることができるのだ。
これは世界的な人間行動学の第一人者であるドクター・ディマティーニの言葉だが「最高価値と仕事がリンクしていると、私たちにとってVocation(職業)はVacation(休暇)になる」のだ。
次に「社員は大人であり、自己管理ができる」と価値観との関係について説明しよう。
最高価値に生きているときの私たちは、誰から何を指示されなくても自分から自発的に動く。しかも、好きなことだからこそ中途半端なことはしない、全力でそれに取り組むのだ。
それから私たちは価値観に生きる時、ポジティブな特性を示すようになる。
私たちは、価値観を基準にして物事を認識し、判断(意思決定)し、行動する。これが私たちの行動のメカニズムである。
そして、物事が自分の価値観に合致している時、私たちは信頼がおけ、正直で、誠実、親切で責任感があり、リーダーシップを発揮するといったポジティブな特性を示す。
逆に価値観に反しているときは、不誠実でごまかしたり、先延ばししたり、無責任で怠けたりと、フォロワーのネガティブな特性を示す。
つまるところ、誰も嘘つきだとか正直者、真面目、怠け者、積極性がある、消極的な人間などいないということ。
ただ純粋に、自分の価値観に合致しているところで、私たちは正直でありリーダーである。価値観に反したところでは、ごまかしたり、先延ばしをするフォロワーであるというだけのことだ。
仕事では、カリスマ経営者としてリーダーシップや決断力が優れた人も、家庭では家事のことになると何もできない人になってしまったりするのだ。これはその人が仕事に最高価値をおき、家事には価値観をおいていないために起るのだ。
こうして考えると、社員が自身の最高価値と仕事を結びつけてとらえていれば、社員はその仕事に全力で取り組み、正直、誠実に働く。こういう社員は監視などする必要はないし、指図をする必要もないのだ。
奇跡の経営の言っている「自己管理できる社員は大人であり、管理監督せずともよい」というのは、まさにこのことを言っているのだ。
つまり、セムコの社員は、セムコで働くことが自身の最高価値と合致しているのである。だから大人のように、リーダーのように振るまい、自己管理できるのだ。
このように奇跡の経営の重要な2つの価値観「一週間毎日が週末」と「社員は大人であり自己管理できる」は、価値観経営によって満たすことができるのである。
では、この価値観を使って奇跡の経営を実現していく具体的なメソッドについて説明しよう。
次のレポートをご覧頂きたい。
岩元貴久